【必読】『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(一田和樹著、角川新書)

「フェイクニュース」書影

「フェイクニュース」(一田和樹著、角川新書)

タイトルに、「緊急!」とつけようかと思ったくらい、これは皆さん、素早く書店に走り、素早く読んでもらいたい本です。

先日、某政党の街頭演説を聞いたことをTwitterで書いたところ、その政党に関するとんでもない中傷を返信してきた方がおられた。
ふだんはごくまともな方のようなので、どうやらデマ記事に完全にだまされ、信じ込んでおられるらしい。(まじめな人ほど信じやすいのだ)
フェイクニュースというのは困ったもので、「それはデマですよ」と言ってあげても、本人は考えを改めるどころか、より意固地になってデマにしがみつくケースが多い。だからもう、デマを信じる人は、そっと放置して近寄らないようにするしかない、とも考えている。


それにしても、いい大人がこんなに簡単に偽情報に騙されてしまうとは、わが国の未来はとっても暗いんじゃないの、どうしたらいいの? と、暗澹とした気分になっていたのだが、救いの書が11月10日に出たばかりだったのだ。
なんという、グッドタイミング!(ええ、私にとって)

正直にいうと、『フェイクニュース』というタイトルは、本書の中身を表しきれていないと思う。
なぜなら、この言葉から一般的に浮かぶイメージは、本書に書かれている深刻な事態より、もっと安っぽく、ひょっとするとコミカルなものですらある可能性が高いからだ。
この本が示唆する、ロシアや中国などが世界中にしかける(そして、大成功しつつある)情報戦争/諜報戦、あるいはわが国を含むいくつかの国家において、政府が民主主義を「似非民主主義」に置き換えるためにしかける情報操作といった、由々しき事態を「フェイクニュース」という言葉から想像する人は、そうとう知識量のある人だろう。

本書は、まず著者の呼ぶ「ハイブリッド戦」の定義と事例の紹介から始まる。

ハイブリッド戦とは、軍事兵器だけではなく、国家のあらゆる活動を兵器化する戦争である。経済、政治、宗教、文化、あらゆるものを兵器とし、相手国を支配し、操るために用いる。(本書 P.19-20)

2017年の米国大統領選挙において、トランプ候補を大統領にするため、ロシアがサイバー戦で大活躍したことは記憶に新しいが、これはもはや、「サイバー戦争」の領域にとどまらない、実質的な「戦争」が始まっているということに他ならない。(本を読んでもらえれば、その意味が理解できます)

大事なことは、「誰が」その情報を操作しているのか? という点だ。
その「フェイクニュース」によって、「誰が」得をするのか? という点だ。

 

私たちはもはや、ネットに限らず、あふれるばかりに流れてくる「情報」を、素直に受け止めている場合ではない。目を皿のようにして情報を精査し、疑いの視線を向け、データに当たって納得がいくまで検証し、そして、フェイクニュースに対してフェイクであると判定できる合理的な判断能力を養わなければならない。
でなければ、私たちの混乱に乗じて、利益を得ようとしている「敵」の思うつぼなのだから。

 

ちなみに、お時間のない方は、世界各国の詳細な事例を集めた第三章と第四章を飛ばし、第一章「フェイクニュースが引き起こした約十三兆円の暴落」、第二章「フェイクニュースとハイブリッド戦」、第五章「日本におけるネット世論操作のエコシステム」だけでも目を通しておかれることをお勧めする。
特に第五章の、ツイッターの右よりアカウントの分析結果は、たいへん興味深い。

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