必読!『典獄と934人のメロス』(坂本敏夫著)

あけましておめでとうございます。
例年、年の初めには、初詣の写真など掲載するのですが、今年はちょっと趣向を変えて、ある本をご紹介いたします。

こちらのブログで、「必読!」と銘打って本をご紹介するのは、これが二度目になります。
一度目は、2011年11月、「必読!『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』(増田俊也)」でした。
おお、あれからもう四年以上たったんですね。自分でも驚いています。

今回はこちら。

典獄と934人のメロス

典獄と934人のメロス

面白い本、すぐれた本はこの世に山ほど存在します。私もTwitterFacebookで時間さえあれば「これ面白かったよ!」とお勧めしていますし、ビブリオバトルや読書会などでお勧めすることもあります。
ですが、何がなんでも読まねばならぬ本となると、そうそうめぐりあえるわけではない。
前回わたしはこう書きました。

かねがね感じるのですが、ノンフィクションにせよ小説にせよ、すぐれた作品というものは、テーマが著者を選ぶのです。「書いてよ」と向こうのほうから著者に迫ってくるのです。

『典獄と934人のメロス』も、まさにそうした一冊。
本の紹介に入る前に、著者の坂本敏夫氏のプロフィールを紹介すべきかと思います。
坂本敏夫氏は、1967年に大阪刑務所の刑務官に採用され、1994年に退官されるまで、刑務所のお仕事に携わってこられたとか。
『死刑執行人の記録』『刑務所のすべて』といった著書がありまして、面識はありませんが、私も勉強のためにずっと読ませていただいておりました。

で、『典獄と934人のメロス』です。
大正十二年九月、関東地方を襲った関東大震災。それにより、横浜刑務所は外塀がすべて崩壊、囚人の房や工場などの建物も全半壊、刑務所の機能をほとんどすべて失う事態となりました。火災も発生し、このままではおよそ千百人の囚人と、看守たちの安全を守ることができない。
横浜刑務所の典獄、今なら刑務所長にあたる椎名通蔵は、監獄法にもとづき、典獄の権限で囚人を24時間にわたり解放することを決定する−−。

本の帯には「絆」という言葉が使われていますが、決して嫌いな言葉ではなかったのに、近頃では安易に使われすぎて、安っぽくなってしまいました。
「Trust me」も、ずいぶん軽い言葉になりましたね。
しかし、本書を読めば、その「Trust me」の本来の値打ちがずしんと胸に響きます。
典獄の信頼と、受けた信頼に命がけで応えようとする囚人たち。
ひとを信じるとは、信じてもらうとは、これほどまでに重く、熱いこと。
関東大震災の後、政治的な理由でずっと隠されてきた、横浜刑務所の「解放」にかかわる真実を、刑務官としてのキャリアを持つ著者が丹念に掘り起こした力作、まさに「著者がテーマに呼ばれた」本です。

2016年の皮切りに、いい本を読ませていただきました! 感謝!